ある飲酒運転にかんするニュースについて

 先日、こんなニュースが流れました。

 神戸市教育委員会は26日、酒気帯び運転をしたにもかかわらず、上司に報告しなかったなどとして、市立小学校の男性教諭(52)を停職6カ月の懲戒処分にしたと発表した。教諭は酒かす汁を食べ、検問に引っかかったといい、「酒かす汁で処分されるのは納得できなかった」と話している。

 同市教委などによると、男性教諭は昨年9月15日夜、同市西区の友人宅で酒かす汁を茶わん2杯食べた。約2時間後に自家用車で帰宅途中、同区内の市道で検問をしていた神戸西署員の呼気検査受け、呼気1リットル中0.15ミリグラムのアルコールが検出。道交法違反(酒気帯び運転)容疑で書類送検され、神戸簡裁で罰金20万円の略式命令を受けた。 

時事通信社 - 03月26日 19:10)


 このニュースについて、私もやってますミクシーその他、ネット上で色々議論があったようですが、酒粕粕汁がどれほどのアルコールか、よく分からないままで、さまざまな意見が出されていましたので、酒業界人の端くれとして、ちょっと検証してみました。話半分にお読みください。



 一般に、体重65キロの健康な成人の場合、缶ビール350ミリを1本飲んで30分後に、呼気1リットル0.1ミリグラム以上になり、この量ですと約2時間で分解しきるといいます。

 また、酒粕のアルコール濃度ですが、含まれる水分が約20度の日本酒です。ただし、酒粕は固形物です。大吟醸粕などでは水分も多くなりますが、通常の粕にはそんなに多くの水分が含まれていませんから、アルコールも少なくなります。調べると、重量費8%がアルコールだそうです。
 粕汁ですと、結構水で薄めます。色々調べてみて、5倍の重さの水で薄めるレシピが多いです。いい粕ならもっと薄めても良いくらいですが、多くてもアルコール度数は1.5%程度ということです。それも、野菜などの具が加わりますから重量比での度数がさらに減り、調理の際の加熱で蒸発する分もあるので、実際にはもっと少なくなります。


 問題の事例の場合、容疑者の人が健康で体重65キロ程度で、相応なアルコールの分解能がある場合、2時間前ですので缶ビール一本分のアルコールは既に分解され、さらに一本半分くらいのアルコールが呼気に含まれています。
 粕汁の正味度数が仮に1%としたら、缶ビール2本半のさらに5倍程度の体積の粕汁、つまり大振りなお碗13倍ほどの粕汁を食べておく必要があります。もしも、茶碗2杯だというなら、酒粕をそのまま茶碗2杯たべたか、水のかわりに日本酒で薄めたか・・・。なんにせよ、さすがに無理があります。

 もしかすると、それ以前、たとえば前夜の過ぎた深酒が残っていたか、体質的にお酒が分解されにくく、かつお酒の反応が出やすい人であるかのどちらかだろうと思います。 (もっとも、この場合はちょっと数字が大きすぎるような気がしますが)
 後者のような方も、おられるのは確かです。ただ、酒が弱い程度と認識して、それほどの自覚がないままの人も少なくありません。仮に申し開きが事実なら、これで職を失うのは気の毒ではあります。


 あと、これまでで取り上げているのは、お酒の濃度、体にどれほど残っているかです。この点でよく紹介されるのは、アルコールの耐性についてみる、パッチテストです。しかし、これはアルコールの分解能力を見るものでしかありません。
 「酔い」というのは、脳がアルコールに反応している状態で、この感受性は実は分解能力とは別物です。 酔いはじめというのは、かなり個人差があり、きわめて少量でも酔う人もいれば、ごくごくまれには、全く酔わない人もあります。(肝臓には負担がかかってます)
 酔いやすさをみるとなると、実際にお酒を飲んで、シミュレーターで試してみるということにしか、ならないのではないでしょうか。どこかのゲームメーカーあたりが、アルコール検知器と組み合わせた簡単なシミュレーターがわりのゲームでも出さないものでしょうか。