フルーツビール私論

 様々な地ビールの中で、原材料に果汁を使ったビールがあります。通常、フルーツビールといわれるビールです。日本の酒税法の基準に沿う限り、発泡酒と呼ばれます。原材料に果汁を使っているということでひとくくりにされておりますが、私なりにもう少し突っ込んで分類しておきます。一応、それぞれに私の知っている商品をあげておきましたが、瓶商品に限っております。樽でしか飲めない城山ビールさんも、非常に良いものを作っておられて、是非飲んで頂きたいですが、次々と新作が出来る都合上、紹介したものが飲めるとは限らないので、除いておきました。

 さて、フルーツビールですが、大きくは二つに分けられると思います。まず、味そのものはビールであるが、果汁を使うことで麦芽とホップでは得がたい香りを持たせたもの。もう一つが、香りだけでなく味も果汁らしさを持っているものです。

 香り主体のほうは、例えば香辛料や香草を使ったものと同じような発想といえるでしょう。味は紛れもなくビールですが、特別の香りを持っているものです。
 この代表ともいえるのは、サンクトガーレンの「湘南ゴールド」ですね。果物ではありませんが、サツマイモを使ったコエドの「紅赤」も加えたいです。

 ここで、あえて区別しておきたいのが香料を使ったもの。香料を使うことで、香りの印象は非常に強くなり、香りのわかりにくい低温でも、香りをはっきり感じることが出来ます。しかし、温くなるとむしろ香りが強すぎて感じますし、特有の後口が残るものがあり、これを好まない人もあります。あるていど注意が必要です。
 このタイプでは、独歩ビールの「マスカットピルス」と「ピーチピルス」は有名です。新潟麦酒の春限定商品の桃果汁を使った「さくら」。エチゴビールのトマト果汁を使った「トマトビベーレ」もあります。


 もう一つの、より果汁らしさを強調したものですが、こうしたビールはこうしたものなりの難しさがあると思います。
 なんといいますか、実際の果物で好まれる味と、たとえばジュースで好まれる味とでは違いがあります。リンゴだと「ふじ」に代表される甘さが主体で酸味の少ないものが好まれますが、ジュースでは酸味と甘味が調和したものが人気です。甘味だけでは物足りなさを感じる場合が多いようです。ビールにした場合でも同様で、酸味とコクのあるランビックがをベースにした、フルーツランビックが人気です。
 それゆえに、果汁を加えてカクテルのように仕上げるものの他、物足りなさを感じさせないように、何らかの工夫を行っているものがあります。

 カクテルのような感覚のものですと、ハーベストムーンの季節限定品が非常によく出来ていると思います。オオヤブラッスリーさんの「みつ蜂さんの宴」も、国産レモンが爽やかでした。また、新潟麦酒の洋梨果汁を使った「エールドルレクチェ」やブルーベリー果汁を使った「エールドブルーベリー」もあります。鬼伝説ビールの「スイートストロベリー」も良作です。これらはカクテルのような感覚ですが、カクテルと違って果汁を加えてから発酵と熟成を経ている分、カクテルとはまた違った印象を持ち合わせています。

 また同じように果汁を使っているもので、酸味やコクを持ったものを使っているものがあります。鬼伝説ビールの「木苺フランボワーズ」や箕面ビールのラズベリーとイチゴを使った「イチゴいちえ」、同社のワイン用ブドウを使った「カベルネエール」もあげられます。
また、ランビック酵母を取り寄せてつくった伊勢角ビールの「ランビックスタイル ホワイトピーチ」も、果汁でなく酵母を工夫して酸味やコクを求めたものですね。

 さらに、果汁を使ったビールという発想を一歩進めて、ビールの醸造技術を使った果汁原料の新しいお酒を目指しているようなものもあります。果汁ではなく、マンゴーピューレを使った新潟麦酒の「スパークリングマンゴー」。それから、同社のトマトの発泡酒「レッドアイ」のように、麦芽よりもスターチを多く使って、トマトの印象をはっきりさせているようなものがあげられると思います。


 とまあ、ざっとこういう風に分けてみましたが、好みの味を探す参考になるでしょうか。わたしは果汁を使ったビールが好きなので、どういうタイプのものも出来がよければ喜んでいただいています。