地ビールは高いか安いか

 値段の高い低いというのは難しいものです。全く同じ商品が同じように売られていて、売り場によって値段が違うならこれは簡単です。しかし、別のものなら同列に語るのは難しいものです。

 単にビールみたいなものを求めているのなら、ホップの香る発泡酒も炭酸爽やかなチューハイも、地ビールより安い大手のビールからさらに安くで手に入ります。こういう比較なら、地ビールは高いんですが、はっきり言って何の意味も無い比較です。たとえば即席めんと手打ちの蕎麦屋さんとを同じ麺類だからと比べて、高い安いと言ってるのに似て、あまりにも違うもの同士を比較しているからです。

 また違う見方ですと、国産地ビールの水準も非常に高いものになった現在、ビールとしては世界的に見て最高水準のものが幾つも登場しています。この世界最高水準のビールが、瓶で一本数百円です。飲食店で樽生を頼んでも千円ほどで飲めるのがざらです。
 世界最高の贅沢を数百円とか千円ほどで出来るわけですから、そう思えば安いものです。どうです?


 ところで、ここまでだと飲み手のかたがたの視点です。酒屋のわたしがあえて書くわけですから、もう一つの視点で見てみます。
 売ってる側の「お金儲け」な視点、商品という視点でみたらどうでしょう。実は、酒屋の経営から言えば、地ビールというのは「安くもなく高くもない」商品だと思います。むしろ安いかもしれません。
 商品としての酒は、大雑把に「大きさ、重さ、冷蔵の必要性」で諸々の経費が決まります。アルコール度数なんて関係ないんです。もっと簡単に、1リットルあたりの値段で安いか高いか判断しても良いと思います。
 私なりの安いお酒の目安と思えるのが、だいたい1リットル1,000円です。ワインのボトルで数百円、日本酒焼酎の一升瓶で二千円未満、このあたりになると、激安ではないにせよ安いお酒だと思います。

 では1リットル千円を超えたら高級品なのかというと、そうでもありません。高級品と言われるのは、例えばワインボトルで数千円とか数円万円。日本酒の一升瓶で一万円以上といった価格のものがあります。ブランデーやウイスキーでもすごいものがありますね。
 このくらいになると、たとえば1リットルで5千円とか1万円以上。日本酒の一升瓶5千円ほどのものを高級品とみても、1リットル3千円くらいで境界線があるわけです。

 国産地ビールの場合、定番品で最も高いのが博石館のスーパーヴィンテージで、小瓶1900円ほどです。これだと1リットルで6千円ほどで、たしかに高級品です。では、次に高いのは? うちの取扱商品に限れば、新潟麦酒のアイスビール・氷結ピルスナー小瓶1,180円、博石館のクリスタルエール小瓶800円、飛騨高山のカルミナが500ml瓶1050円と続きます。これをみれば、新潟麦酒のアイスビールが1リットル当たり3000円を超えるだけです。このとおり商品として見たら、地ビールのほとんどは安い酒では無いが高級な酒でもないのです。
 誤解の無いように行っておきますが、別に高級品じゃないから値上げをしようとかいうんじゃありません。ぽっかりと空白のカテゴリーがあると言いたいんです。
 ビールというお酒を大手も地ビールも区別無く、ひとくくりで見たとき、大手は大衆的な安い商品を主に作ります。これは他のお酒でも変わりません。そして、中ほどの商品を地ビール各社が作って、高級品はほとんど存在しないという形になっています。輸入品で少しあるくらいでしょうか。
 
 輸入、国産を問わず日本で多彩なビールが飲まれるようになって、まだ10年程度と日が浅いわけですが、いずれ高級品の需要は出てくるはずです。輸入品だけでなく、国産でという要望も当然あるでしょう。
 いつになるや分かりませんが、そういった需要に応じた商品開発を地ビール各社のみなさんにお願いしたいところです。もちろん、その頃には、うちの店もそういう高級品も商えるようになりたいです。